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 ハンセン病療養所における胎児等標本に関する要望書

2005年12月20日

厚生労働大臣 川崎二郎様
ハンセン病問題に関する検証会議・座長 金平輝子様

ハンセン病問題研究会
世話人代表 村岡潔
   連絡先 ***************


ハンセン病療養所における胎児等標本に関する要望書

 
 本年1月、「ハンセン病問題に関する検証会議」(金平輝子座長)は、全国の国立ハンセン病療養所など計6施設で、114体(邑久光明園49体、多磨全生園35体、星塚敬愛園17体、駿河療養所10体、松丘保養園1体、国立感染 症研究所ハンセン病研究センター2体)の胎児標本、そして2000体を超える病理標本、さらに多くの手術摘出材料が放置・残されていたことをまとめた「胎児等標本調査結果報告書」を厚生労働省に提出しました。
  114体のホルマリン漬けにされた新生児や胎児らは、90年にわたる「ハンセン病者」への強制隔離・絶滅政策という人間の尊厳を根底から奪う極限の差別への証言者です。
  新生児や胎児らが、どのような経過で「生まれる」ことを拒まれたのか、その事実をつまびらかにし検証すること、そして、責任の所在を明らかにし国公立療養所内で行われていた組織犯罪の全容を解明すること、さらに、このような理不尽な人権侵害を二度と起こさぬよう具体的方策を講じることは、国や療養所関係者のみならず、私たちすべてにとっての責務と考えます。
  しかしながら、発表された「調査結果報告書」を見る限り、最も被害を受けた当事者(とりわけ女性)の声が反映されておらず、調査・検証作業は全く不十分です。「胎児等標本調査結果報告書」とは別の「ハンセン病問題に関する被害実態調査報告書」(95頁)には、1942年に療養所に入所した女性の声で「堕胎されて30年後、医局に行くとホルマリン漬けの我が子と、知り合いの子供の2体が目に入る。後でその知り合いの人にもホルマリン漬けの子供が医局にあったことを話し、2人で泣いた」と聞き取り調査で報告されています。にもかかわらず、厚生労働省は「今年度中に焼却、埋葬・供養などを行うとした案を各施設に通知した。検証会議が求めていた検視の申し出はしない」(朝日新聞、05年 11月28日付け)と報道されています。そして、この厚労省案を受けて「敬愛園が来年1月をめどに慰霊式典を計画している」「慰霊碑は建立しない」「半数以上の親を園側は把握しているが、精神的ショックに配慮し個別に告知しない」(南日本新聞、05年 12月11日付け)とあります。実態解明も不十分なまま、当事者本人に通知せず、「供養」の名のもとに焼却することは、隔離政策・強制堕胎の事実を再び暗闇へと葬り去ることに他なりません。
それゆえ、私たちは、以下の点を強く要望します。


1.療養所での新生児殺し・強制堕胎の実態を詳細に解明すること

  報告書によれば、発見された114体の胎児標本のうち、29体は妊娠8ヶ月(32週)を過ぎていることから、生きて生まれた赤ちゃんが療養所職員らの手によって殺害された可能性が高いと示唆されています。事実、多くの入所者の証言がこれを裏付けています。また、32週未満の胎児についても、直接あるいは間接的な強制による中絶により抹殺されたのです。
療養所内での中絶や出産と、その後の処置について、入所者やその家族に加えて、退所者、医師・看護師はじめ退職者を含む療養所職員への詳細な聞き取り調査を行うこと。そして、これら証言とつき合わせながら、個人・親が特定される胎児標本はもとより、不明な標本についても、その一体一体について、誰の子どもか、どのような経過で中絶や殺害が行われたのか、それに関わったのは誰か、摘出後(殺害後)標本とされた経過を明らかにする作業を早急に開始することを求めます。

2.調査時点で胎児標本の存在しなかった、あるいは既に「処分」したとされている療養所についても、詳細な実態を解明すること

  全国13の国立ハンセン病療養所のうち、調査時点で胎児標本の存在が判明したのは5ヶ所ですが、報告書にも記載されているように、全国すべての療養所で同様の標本作製が行われていたと考えられます。そのため、既に「処分」したという長島愛生園などすべての療養所を対象に、再度、入所者やその家族、退所者、療養所関係者 (退職者を含む)すべてに聞き取り調査を行い、強制堕胎および新生児殺しの実態を明らかにし、標本を作製し放置していた事実を解明すること。また、既に「処分」されたとする胎児標本に関して、その経過についても詳細に調査・検証をすることを求めます。

3.胎児標本の医学研究への利用、外部研究機関への持ち出し等の実態を明らかにすること

  報告書では断片的に言及されているに過ぎませんが、多くの胎児標本が研究材料とされたり、療養所外に持ち出されたりしたものと考えられます。作製した胎児標本を医学研究に用いたことを示す医学論文を詳細に調査し、研究材料としての利用実態を明らかにすること。同時に、療養所に関係した大学、研究機関およびその関係者らに対する徹底した聞き取り調査を行い、胎児標本の外部研究機関への持ち出しおよび持ち出された胎児標本の現存の可否や処分の実態について明らかにすることを求めます。

4.病理標本や手術摘出材料の医学研究への利用、外部研究機関への持ち出し等の実態を明らかにすること

  入所者の死後解剖によって残された多数の病理標本や手術摘出材料についても、退職者を含む療養所職員全員、および関連する大学・研究機関の関係者全てに聞き取り調査を行い、研究材料としての利用の実態、療養所外部への標本持ち出しの実態、持ち出された標本の存在の可否や処分方法について詳細に調査・検証することを要望します。

5.不妊手術・断種について

 強制的中絶、新生児殺しと深く関係するものとして、入所者に対する強制不妊手術・断種がありますが、これらの実態についてさらに徹底的な調査・検証を求めます。特に、「ハンセン病問題に関する被害実態調査報告書」の「国立療養所入所者調査」の6.優生政策の項の6−4「未感染児童」の断種の項に、療養所の保育所に入所していた子どもが療養所から出るときに断種や不妊手術をされた可能性があるとの記述がありますが、これについて、さらに調査を徹底し、実態を解明することを求めます。

6.国の責任で「実態解明・真相究明のための委員会」を組織すること

 これらの調査・検証を国の責任で継続して行うために、入所者やその関係者、市民(特に女性を含む)を交えた新たな「実態解明・真相究明のための委員会」を発足させることを求めます。そして、明らかになった事実を広く全市民に報告することを要求します。

以上



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